2025
12.18

滋賀県高島市新ごみ処理施設予算措置 コスト判断で建て替え見送り

社会

高島市の新ごみ処理施設建設予定地周辺の様子
出典:京都新聞デジタル

滋賀県高島市は、新たなごみ処理施設の設置を進めるため、2025年度補正予算案に造成工事費や運営委託費を計上した。現在の市環境センターは老朽化により2018年に稼働を停止し、三重県の民間事業者に委託処理を継続している状況にある。初当選した今城克啓市長は、市長選で建て替えを公約に掲げていたが、国の補助金活用による負担軽減を考慮し、新設を選択。コスト面での判断が決定の鍵となった。

この動きは、自治体におけるごみ処理インフラの更新が全国的に課題となっている中で注目される。高島市の場合、施設停止後の委託処理が長期化し、財政負担が増大している背景がある。記事では、予算の詳細、決定プロセス、住民対応の課題を解説し、今後の環境影響や経済効果を多角的に分析する。結論として、新施設稼働により安定したごみ処理体制が確立され、持続可能な資源循環社会への移行が期待される。

新施設整備の背景と決定プロセス

高島市の現行ごみ処理施設である市環境センター(今津町途中谷)は、老朽化と設備故障により2018年2月末に稼働を停止した。以降、市内の燃やせるごみは三重県伊賀市の民間事業者に委託されており、年間の処理費用が財政を圧迫している。この委託体制は一時的な措置として想定されていたが、長期化により新たな施設整備の必要性が浮上した。

2025年1月の市長選で初当選した今城克啓市長は、公約として環境センターの建て替えを掲げ、比較検討を約束した。しかし、検討の結果、新設が有利と判断された。主な理由は、国の補助金制度の活用可能性である。新設の場合、施設建設費の一定割合を国が負担する一方、建て替えでは補助対象外となるケースが多いため、財政負担の軽減が見込まれる。市長は「コストを総合的に評価した結果、新設が適切」と説明している。

この決定プロセスは、高島市議会でも議論された。議会だよりによると、事業者選定は総合評価一般競争入札を予定し、価格だけでなく技術提案や施工実績を考慮。守山市の類似施設(運営費20年間85億円)と比較して、高島市の基本計画概算137億円は高額との指摘があったが、防衛省補助の活用でコストダウンを図る方針が示された。

現在の高島市環境センターの外観
出典:高島市公式サイト

コスト比較と判断基準

新設と建て替えのコスト比較が決定の核心である。新設の場合、造成工事費として2025年度約1億7700万円、2026年度約3億6000万円を計上。加えて、2026~2049年度の施設整備運営業務委託費として約303億円が見込まれている。これに対し、建て替えは既存施設の解体費や更新費用が追加で発生し、総額で新設を上回る可能性が高いと試算された。

判断基準として、物価高騰や人件費上昇が考慮された。議会では、建設費の高騰を懸念する声が上がり、経費比較の透明性を求める意見が相次いだ。守山市の事例では、運営費が抑えられているが、高島市は地形的な制約や処理量の違いを理由に独自の計画を推進。防衛省補助を活用することで、市民負担を最小限に抑える狙いがある。

他自治体の事例を比較すると、芦屋市と神戸市の広域連携では、独自施設の建て替えを避け、委託によりコストを4割削減し、発電量を2倍に向上させた。高島市の場合も、単独新設ながら補助金活用で類似効果を期待。メリットとして、安定した処理体制の確立と資源循環の推進が挙げられる。一方、デメリットは初期投資の大きさと住民合意形成の難航である。

予算措置の詳細と財政影響

2025年11月25日開会の市議会定例会に提出された一般会計補正予算案では、新施設整備に向けた具体的な費用が明記された。造成工事の今年度分として約1億7700万円を計上し、債務負担行為として2026年度の造成工事約3億6000万円、2026~2049年度の運営委託約303億円を設定。これにより、長期的な財政計画が明確化された。

財政影響として、委託処理の継続コスト(年間数億円規模)と比較して、新施設稼働後の運営費は安定する見込み。国の補助金により負担軽減が図られるが、建設費高騰リスクを考慮したコストダウン策が求められる。生ごみ残渣の処理については、大津市との協議で同意を得ており、令和6年度122トンの搬入実績があるが、家庭ごみへの拡大は収集体制の再構築が必要で未定。

建設予定地とスケジュール

建設予定地は安曇川町田中の泰山寺区で、2027年3月に造成工事を完了予定。続いて、2030年3月に焼却施設、2032年4月にリサイクル施設の運営を開始する。施設は焼却とリサイクルを統合し、効率的な資源循環を目指す。

スケジュールは、環境影響評価の実施を前提とする。生活環境影響調査の結果では、大気汚染や騒音の影響が最小限に抑えられる見込みだが、詳細なデータ公開が求められている。市長は「住民の気持ちに十分配慮し、慎重に説明を進める」と述べ、合意形成を重視する姿勢を示した。

ごみ焼却施設の処理フローイメージ
出典:松任石川環境クリーンセンター

住民対応と環境影響の分析

建設予定地周辺では、住民から反対の声が上がっている。主な懸念は、ごみ収集車の搬入路の合意未形成と生活環境への影響である。市は説明会を複数回開催し、透明性を確保する方針だが、信頼回復が課題となる。

環境影響の分析では、新施設の稼働により、委託処理に伴う輸送排出ガスが削減され、CO2排出量の低減が期待される。他方、建設時の騒音や粉じん対策が不可欠。全国的なトレンドとして、ごみ処理施設の更新は資源循環型社会への移行を促すが、高島市の場合、地元産廃の受け入れ拡大や生ごみ減量化の推進が鍵となる。守山市との比較では、運営効率の向上が求められ、EU諸国で採用されるトンネルコンポスト方式の導入可能性も指摘されている。

他国事例として、ドイツではごみ焼却施設のエネルギー回収率が90%を超え、電力供給に寄与。高島市も発電機能の強化で、経済効果を生む余地がある。デメリットとして、施設寿命後の更新コストが挙げられ、長期計画の策定が重要。

要点の再整理と今後の展望

  • 高島市の現施設は2018年停止、三重委託継続中。新設予算として造成費約5億3700万円、運営委託約303億円を計上。
  • 市長選公約の建て替えをコスト判断で見送り。新設で国の補助金活用し負担軽減。
  • 建設地: 安曇川町田中泰山寺区。スケジュール: 2027年造成完了、2030年焼却施設稼働、2032年リサイクル施設稼働。
  • 課題: 住民反対、建設費高騰。分析: 環境負荷低減と資源循環推進のメリットが大きいが、合意形成が鍵。
  • 比較: 守山市の低コスト事例や芦屋・神戸の広域連携を参考に効率化を図る。

今後の展望として、新施設稼働により安定したごみ処理体制が確立され、減量・リサイクル率の向上を目指す。物価変動を考慮した予算管理と、住民参加型の環境教育が注視すべきポイント。持続可能な地域社会の実現に向け、自治体間の連携強化が期待される。

参考文献:

  • 京都新聞デジタル(2025年11月19日)「滋賀県高島市の新ごみ処理施設の設置に向け予算措置 建て替えとの検討も「コスト」で判断」
  • 朝日新聞(2025年11月27日)「滋賀・高島のごみ処理施設 造成費案を提出 現在は三重の業者に委託」
  • 高島市議会だより 第101号(2025年)「新ごみ処理施設建設の進捗と課題、今後の取組み方針を問う」
  • 高島市公式サイト「環境センターの利用方法について」
  • 松任石川環境クリーンセンター「ごみ焼却施設の各設備」

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