空き家を「にぎわいの場」に——市長ピッチ後、民間4提案を公開

高島市は2026年8月18日、官民共創プログラム「X-KANSAIソーシャルイノベーション・プログラム」第3期で寄せられた空き家対策の主な提案を、公式ページで公開した。ページID 15712(同内容の組織ページは15683)。窓口は官民共創本部・未来創造課(新旭町北畑565、電話0740-25-8114)。
市の整理では、今年度の高島市は「空き家対策」のテーマオーナーだ。令和8年7月17日、大阪・グラングリーン大阪北館JAM BASEで開かれた自治体ピッチに今城市長が登壇し、「空き家になる前に早期にアプローチすること」の重要性を述べた、と書かれている。その後に民間から具体策が届き、課題とのマッチングに進む、という段取りだ。
僕は最初、8月1日に出ていた空家等実態調査の続きかと思いました。出典を並べると、調査は市民協働課の外観台帳づくり、こちらは未来創造課の解決策づくり、と担当も時間軸も違います。同じ「空き家」でも、入口を混ぜると問い合わせ先がずれます。
市が8月18日に並べた4つの提案
公式ページが「主な提案内容」として番号付きで置いているのは、次の4つです。
| # | 提案 | 狙いの置き場 |
|---|---|---|
| 1 | 「終活」版母子(父子)手帳アプリ | 空き家になる前。相続・名義・連絡先を家族で共有する |
| 2 | 空き家管理「クラウド」システム | 空き家になったあと。遠隔の見守りと関係者の情報共有 |
| 3 | 企業の「サテライトオフィス」としての活用 | 空き家を仕事の場に変える |
| 4 | 学生の「学びの場」としての活用 | 空き家を滞在・学習の場に変える |
1と2は「持ち主と行政・業者の情報の通し方」、3と4は「空いた建物の使い方」です。同じ空き家対策でも、時間軸が違います。市がピッチで強調した「なる前」は、番号1にいちばん近い。番号2以降は、すでに空いてしまったあとの管理と転用です。
ピッチ当日の投影資料(市が公開した別写真)には、クラウドの隣に「空き家リサーチ用ドローン」も並んでいました。連携を希望する業種として、調査コンサルティング事業者とIoTサービス事業者が挙げられ、相続人への連絡、関係者との連携、対応と活用の速さ、が期待効果として書かれています。ページ本文の4項目は要約で、当日スライドはもう一段、現場の測り方まで踏み込んでいた、と読む向きもあります。

終活手帳アプリ、という言い方が目に残りました。母子手帳は出生の記録を一冊に束ねる道具です。それを人生の終わり側に転用する、というのは、空き家対策を解体や売却の話だけに閉じない、という設計です。湖西では相続で名義が複数になり、連絡先が県外に散る家が少なくない。担当課の説明では、空き家紹介システムの相談も、まず持ち主側の整理から始まることが多い。アプリが手帳の比喩のまま終わるのか、戸籍・登記・納税の実務まで繋ぐのかは、これから企業提案の中身を見ないと決まりません。
3と4の転用は、すでに市が民間と結んできた協定の延長でも読めます。未来創造課の連携一覧には、令和8年7月28日の株式会社滋賀レイクス包括連携、令和8年2月13日の滋賀短期大学、令和7年の麗澤大学・同志社大学社会学部、令和3年のJR西日本など、教育と滞在と仕事が混ざる相手が並んでいます。サテライトや学び場は、新しい言葉を足すというより、既存の協定先に「空き家」という物件種別を渡す話、と見ることもできます。
同じ未来創造課は2026年8月6日、第3回「共創のまちづくり勉強会」の開催報告も出しています(https://www.city.takashima.lg.jp/soshiki/kanmin/mirai/1/15684.html)。ピッチの11日前です。大阪の公募と、市内の勉強会が同じ課のカレンダーに並ぶ。僕は、協定一覧の更新日(8月6日)と今回の提案公開(8月18日)を同じ週の動きとしてメモしました。
「なる前」と、すでに市にある道具は別物
表層は、関西のピッチで企業が4案を出した、という発表です。本質は、高島市の空き家政策がいま三層に割れている、という点だと僕は読みました。
ひとつは市民協働課の空家等実態調査です。2026年8月下旬から9月下旬、市内全域を道路上から外観確認する。委託はエアロトヨタ、調査員証を携帯し、敷地内には入らない。目的は平成29年4月策定の空家等対策計画の改訂データです。案内は 空家等実態調査。
ふたつめは、すまいの終活ナビや解体・固定資産税のシミュレーター、空き家の迷惑度診断です。クラッソーネ社の高島市版で、所有者が自分で数字を出す道具です。案内は 空き家の解体費用等の試算ツール。
みっつめが、今回のX-KANSAIです。テーマオーナーとして企業提案を受け、マッチングする。窓口は未来創造課。調査でも試算でもなく、「誰と組んで何を実装するか」の層です。
住民側では、近所に調査員が来た、市のページに電卓がある、大阪で市長が話した、が同じニュースに見えやすい。窓口は調査が0740-25-8526(定住推進室)、今回の提案が0740-25-8114(未来創造課)です。電話番号が違う、というのがいちばん短い見分け方です。
とにかく気になるのは、4提案のうち「なる前」に効くのは終活手帳だけだ、という点です。クラウドもサテライトも学び場も、空いてから動く道具です。市長がピッチで繰り返した早期アプローチと、ページに並んだ提案の重心が、完全には重なっていない。企業側が実装しやすいのは空き家の計測と転用で、名義が生きているうちの家族の話は、アプリ一社では終わりにくい。そのズレを市がどう埋めるかが、10月以降のマッチングの見どころだと読む向きもあります。

事務局関係者の記録(2026年7月20日付)では、市長ピッチで次のような数字が共有された、と書かれています。人口はピークの約5万5千人から2万人割れが視野に入りつつある。市内の住宅はおよそ2万2千戸、空き家はすでに4千8百戸——。市公式ページ本文にはこの数字は載っていません。確定値として扱うなら、市の統計・空家等対策計画の改訂案を待つ必要があります。ただ、ピッチの場で市長が「切迫」を数字で示した、という事実は、関係者記録と投影スライドの自治体情報ページの両方から確認できます。
知りませんでした、スライドの自治体情報に、面積693.06平方キロ、合併前6町、琵琶湖面積の約30パーセント、といった地誌が先に来るとは。空き家の戸数より先に、市の広さと分散を見せる順番です。湖西線で京都まで約50分、大阪まで約70分、と書かれた行の隣に、旧町単位の地図がある。サテライトや学び場の提案が、新旭の庁舎周辺だけでなく、マキノ・今津・朽木の空き家を想定するなら、この広さが先に来る理由は分かります。移動コストを無視した「1棟活用」は、湖西ではすぐ破綻します。
関西広域ピッチの中での高島
X-KANSAIは、一般社団法人うめきた未来イノベーション機構(U-FINO)が2024年度から続ける官民共創です。関西の企業、自治体、金融機関、教育機関が課題を持ち寄り、民間から解決策を募る。第3期の公募対象は、生活交通の確保、空き家対策、持続的な公園マネジメント、人材・労働力不足の4テーマ。応募締切は2026年10月16日18時。書類審査のあと、12月18日にJAM BASEで最終審査会、という日程が主催者側のイベントレポートに出ています。
7月17日のピッチで登壇したのは、守山市(生活交通)、舞鶴市(公園、鴨田市長)、高島市(空き家、今城市長)、それにU-FINO自身(人材・労働力不足)です。市が公開した集合写真のキャプションは、舞鶴市・鴨田市長、高島市・今城市長、守山市・今井係長。トップが立つ市と、担当が立つ市が混ざる並びです。

主催者のイベントレポートでは、説明会の章立てまで公開されています。XKANSAI説明、公募内容(`t=474`)、事業開発講座(`t=1648`)、人材不足(`t=2222`)、守山の生活交通(`t=2932`)、舞鶴の公園(`t=3637`)、高島の空き家は `t=4061`(1時間7分41秒付近)です。高島だけを見るなら、そこから再生すれば足ります。
https://www.youtube.com/watch?v=pXUW7NLXosk&t=4061sレポート本体は https://u-fino.com/event/reports/detail/000578.html 、プログラム概要は https://u-fino.com/program/xkansai2026/ です。
まあ、大阪の会場で「湖西の空き家」を話すのは、市場を市域の外に取りに行く、という判断でもあります。市内の工務店と宅建だけでは回らない規模を、関西のIoTやコンサルに開く。その代わり、提案の実装が新旭の窓口から遠くなる。担当課の説明では、今後は企業提案と課題のマッチング、としか書かれていません。どの提案が実証に入り、どの旧町のどの物件種別を対象にするかは、8月18日のページには出ていません。

1〜3年で観測できるのは、次の三点だと思います。ひとつは10月16日締切のあとに、空き家テーマで何社が残るか。ふたつめは、空家等実態調査の結果が改訂計画にどう載るか。みっつめは、終活手帳が家族向けアプリで止まるのか、登記・税・空き家紹介システム(ページID 4927)まで繋がるか。シミュレーターはすでに「自分で計算する」道具です。手帳が「家族で共有する」道具になり、クラウドが「空いたあと見守る」道具になるなら、三層が役割分担として読めます。全部が同じ「空き家アプリ」に潰れたら、窓口はまた一本化の説明に戻ります。
所有者が見ること、企業が見ること
自分ごととしては、役割で見るページが分かれます。
市内に空き家を持つ人、相続で名義が残っている人は、まず実態調査の案内と終活ナビです。調査員が道路から写真を撮ることと、解体費の目安を自分で出すことは、大阪のピッチを待たなくても動きます。問い合わせは定住推進室(0740-25-8526)。移住サイト「高島で暮らそう。」の相談導線(https://move-takashima.jp/contact)も、物件を貸したい・借りたい側の入口です。
企業や大学で、サテライトや学び場を考えている側は、未来創造課(0740-25-8114)とU-FINOの公募要領です。市の協定一覧(https://www.city.takashima.lg.jp/soshiki/kanmin/mirai/1/3/1962.html)で、すでに組んでいる相手を見てから提案する方が、重複が少ない。10月16日を過ぎると、今期の公募枠自体が閉じます。
僕自身は、近所から「市が空き家を何かするらしい」と聞かれたら、調査のチラシと今回の4項目を同じ封筒に入れないつもりです。前者は今月末から始まる外観確認、後者は企業とのマッチングの途中経過です。日付も課も違います。さすがに、スライドの「にぎわいの場」だけを切り取って「もう決まった」とは書けません。決まったのは、市がテーマオーナーとして4案を公開した、というところまでです。
確認できたのは、8月18日付の公式ページ、7月17日の登壇、4提案の見出し、集合写真の肩書、主催者レポートの日程と動画、未来創造課の電話、調査・試算ツールとの担当分離、までです。4提案の提案企業名、実証エリア、予算、採択時期は、当該ページには書かれていません。人口と空き家戸数の確定値も、公式本文には出ていません。
参照した主な情報は、市公式15712/15683、官民共創の協定一覧1962、空家等実態調査15645、試算ツール13643、空き家紹介システム4927、U-FINOイベントレポート、プログラムページ、アーカイブ動画、事務局関係者のnoteです。
